1月 05 2011
差し押さえと債務名義
多重債務や慰謝料など、相手に金銭を支払うべき立場の方からご相談を受けた際に、「相手から差押をされたりしないか」というご心配をされる方がみられます。
結論から言うと、単にお金を借りていたり、損害賠償債務があるというだけで、ある日突然に銀行口座や職場の給料が差押される、といったことはありません。差押をするには、裁判所を通じたそれなりの手続が必要です。
なお差押といっても、その対象は債権、動産、不動産と様々ですが、一般の方が比較的関わる可能性の高いものは債権の差押と思われますので、債権執行手続の流れを簡単に説明してみましょう。
基本的な債権差押の場面では、当事者が以下のように3人出てきます。
A:債権者(支払ってもらう権利のある人)
B:債務者(支払う義務のある人)
C:第三債務者(Bに支払い義務のある人)
【A→B】という請求を実現するために、Aが【B→C】という請求権を取り立てるというイメージです。Cというのは、たとえば「Bの勤務する会社」(BがCに給料債権を持ちます)や、「Bの預金を預かっている銀行」(BがCに預金払戻請求権を持ちます)などです。
差押を裁判所に申し立てるには、まず「債務名義」というものが必要となります。
債務名義には色々な種類がありますが、たとえば確定した判決正本、裁判上の和解が成立した場合や調停が成立した場合に、裁判所が作成する調書の正本、公証人役場で作成した公正証書正本、仮執行宣言付支払督促などです。この例を見ても分かるように、債務名義というのは裁判所や公証人役場などの公的な機関で作成された文書です。一般の方が相手方と合意の元に作成した示談書や和解書などを、そのまま債務名義として差押に用いることはできませんので区別してください。
債権者Aが債務名義を得て裁判所に「債権差押命令申立」を行うと、裁判所から「債権差押命令」が出され、AやBだけでなく、第三債務者であるCにも差押命令の正本が裁判所から送達されます。債務者Bへの送達が完了した日から1週間が経過するとAに取り立て権が生じるので、AはCから直接支払を受けられるようになります。これが債権差押手続の簡単な流れです。
なお債務名義が既にあるケースであれば、差押申立の準備に取り掛かってから、債権差押命令が出て直接取り立てが可能になるまでの時間は、それほど長いものではありません(早ければ3週間程度のこともあります)。差押をされてしまうと、預金口座の残高が減って予定していた引落ができなかったり、会社に差押が知られてしまったりといったトラブルもあり得ます。相手が債務名義を持っているようなケースでは、支払いを怠ると、冒頭に書いたような「ある日突然差し押さえが」という展開も現実的なものとなってきますから、債務名義で定められた金員の支払を怠ることがないよう十分注意すべきでしょう。
クレジットカードの支払いが滞っており、裁判所から呼び出しが来ているのに放置してしまったような方が結構みられますが、そのまま判決が言渡されたり、支払督促に仮執行宣言が付されることで差押が可能となってしまいますから、ともかく放置せずに対処されることをお勧めしています。