10月 30 2009
被疑者国選弁護の対象事件が拡張されました
1 被疑者段階での国選弁護制度
2006年よりスタートした新しい国選弁護制度について、2009年5月21日から対象事件が拡張されました。
これまで、被疑者段階の国選弁護は、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しく は禁固にあたる事件などの重大事件(殺人・強盗など)に限られていましたが、今回の拡張により長期3年を超える懲役若しくは禁固にあたる事件(窃盗や傷害、詐欺など)についても対象とされるようになっています。
2 制度の変遷
2006年10月以前は、起訴されて被告人となった段階でなければ国選弁護人をつけることができなかったので、逮捕・勾留された公訴提起前の被疑者は当番弁護士制度を利用して、無料で弁護士から法的アドバイスを受けることができるようになっていました。ただ、当番弁護士の面会は1回きりですから、その後も引き続いて起訴前の弁護活動を希望する場合には、私選弁護人としての依頼・契約が個別に必要という状況でした。
2004年5月21日に成立・公布された「刑事訴訟法の一部を改正する法律」により、2006年から被疑者段階から国選弁護人をつけることが可能となり、今回その範囲がさらに拡張されてきたという経緯となります。
3 現場の対応
被疑者国選弁護の対象が窃盗事件や傷害事件にまで拡張されたことにより、案件数が一気に増加して弁護士が不足する可能性については従前から懸念されていました。愛知県弁護士会内でも今年は被疑者国選弁護人名簿への登載がかなりアナウンスされており、準備の甲斐あってか大きな混乱はなかったように聞いていますが、それでもまだ慢性的に人手が足りない状況のようです。
私も、微力ながら貢献できることがあればと被疑者国選弁護人としての活動を現在行っています。
4 弁護人としての進め方
基本的な制度自体は、従来の国選弁護人と大きな変化はありません。指定日に事務所で待機していると法テラスから連絡が入るので、被疑者が勾留されている警察署や拘置所まで接見に出向くことから被疑者国選弁護が始まります。
もし起訴されてしまうと、本人や家族にとって社会的・精神的な負担が非常に大きくなってしまいますから、起訴前に示談交渉・被害弁償などをとりまとめ、不起訴になるよう努力することが起訴前の弁護活動においては大変重要な業務となってきます。
もっとも案件の中には、示談や被害弁償を実施したくても資力面で難しいなど、望ましい方針で業務を進めることが難しいケースも一定程度あると思われます。とはいえ被害弁償などを行わない(行えない)場合でも、話し相手になったり被疑者家族との連絡窓口になるだけでなく、不当な取調べ・調書作成などが行われないように捜査過程をよく聞き出しておくことが、適切な弁護活動のために必要と考えています。
5 その他雑感
被疑者が起訴されて被告人となった場合、被疑者国選弁護人はそのまま被告人国選弁護人となりますが、弁護報酬は算定方式がそれぞれ異なっており別個に算出されます。
被疑者段階では「接見回数」を基本的指標としつつ、示談成立の場合などに加算される 方式、被告人段階では「公判回数」を基本的指標としつつ、保釈や和解があった場合などに加算される方式となっており、被告人弁護に関して接見報酬は出ないことになっています。
何をもって業務遂行と見るかの考え方は様々と思いますが、別件で再勾留されたという ので接見に行ったところ、速やかに追起訴されてしまっており、再勾留分についての被疑者国選報酬がゼロだったということがありました。こうした被疑者・被告人に関する情報伝達も、もっとスムーズになっていけばより良いと思います。
逮捕段階の被疑者や、長期3年以下の懲役もしくは禁錮に当たる罪で勾留されている被疑者など、いまだ一部対象外の部分があるという課題も残されてはおりますが、まずは担当事件について被疑者・被告人の権利が十分守られ、最善の弁護活動となるようにと心がけつつ日々努めております。